本記事では、以下の内容について解説しています。
- 行動変容モデルとして有名なTTMモデルについて
- 行動変容を起こす各プロセスについて
- 各プロセス段階において適した介入方法について
- 行動変容が他者による介入が有効な理由
- 行動変容にも、【カルマ・ヨーガ】の教えが有効となる理由
【生活習慣病】をはじめとする多くの慢性疾患の【予防】又は【治療】をしていくには、いわゆる【健康的】といわれる行動を【継続】していくしかありません。例えば、高血圧も薬では治ることは稀で、目標値にコントロールをするために処方されます。しかし、病気=薬というのがスタンダードになっているのが問題なのです。【慢性疾患】に対して、第一選択は薬ではなく、【自己努力】による健康実現があるべきですが、薬の処方というのは人間の尊厳を奪う方法とも捉えられます。【尊厳】は奪われると、舵を他人にまかせるのと同じ意味ですので【自己努力】が働きにくくなります。よって行動変容も起こりにくくなります。
あくまで変化するのは自分自身ですので、全てを肩代わりすることは、本質的な【行動変容】にはつながらないということになります。
【行動】という言葉の正確な意味を理解しておく必要があります。
(※【行動】という言葉の意味については、以下をご参照下さい)
行動変容には5つのステージがあるといわれ、各段階おいて行動、認知、心理が異なるため、各段階に適した計画的なアプローチが重要です。相手の行動を変えるセラピーを行うのであれば、適したアセスメントの上で初めてアプローチが生きてきます。
今回は、人が健康行動に変容をする5つのステージについてを解説していきます。
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行動変容とは
【行動変容】(behavior modification)という用語は,心理学者のアイゼンクらが1950年代後半に,不適応行動の治療理論と治療技法を学習理論・行動理論に求めるべきであると提唱して【行動療法】が普及するとともに,行動療法とほぼ同義語として用いられるようになりました。
一般的に健康への【行動変容】は、「生まれてから培われてきた行動パターン(ライフスタイル)を、健康的な望ましいものに変えていくこと」と理解されています。例えば、健康的な食事、定期的な運動、禁煙、禁酒などのことです。
Transtheoretical-modelについて
【行動療法】とは心理療法の一つで、実験的に確立されてきた学習理論や行動理論に基づいて、対象者の不適応行動を消去し、適応的な行動がとれるようにするための技法の総称のこととされています。その後、【行動療法】が教育やその他の広い分野での行動修正に用いられるようになるにつれて,行動変容という用語も汎用されるようになってきました。なかでも行動変容の支援に広く応用されている【Prochaska】らが提唱した【TTM】(transtheoretical model)が有名です。
【TTM】は、ProchaskaとDiClementeによって提唱されました。独力で【禁煙】する喫煙者と専門的な禁煙治療を受ける喫煙者の比較研究から。300以上の様々な心理療法や行動変化理論を統合して作成されましたモデルであり、介入に関する理論や,変化に関する様々なプロセスからなり,【行動変容ステージ】の5段階、10の【変容プロセス】【意思決定のバランス】【自己効力感】を高めることを主要な内容としています。
基本的な前提として、行動変容はプロセスであるということです。イベントではありません。一般的に行動を起こしていないグループの内訳は、全熟考期40%、熟考期40%、準備期20%とされています。
行動変容ステージ
まずは【クライエント】がどのステージにいるのかを把握する必要性があります。前熟考期の人物に「運動しましょう」と訴えかけても、必要性も感じていない段階では逆に抵抗を受けて、関係性が悪化することになります。
前熟考期/precontemplation
第1段階は「行動を起こしてもおらず、6ヶ月以内に行動を変えようとする意図もない」段階です。危機感はなく、必要とも認識もしていません。また取るべき行動への知識もありません。そのことについて話すことや情報を集めることも避けることもあります。
熟考期/contemplation
第2段階は、「6ヶ月以内に行動を変えようとする意図がある」段階です。【行動変容】についてのメリット、デメリットを意識している状態です。しかし、その行動を遅らせたり、何かの理由で迷っていたり、わかってはいるが準備ができていない状態です。一般的にこのステージに長くとどまる事が多いとされています。
「やるやる」と言いつつ、時期を問われると答えられない人や、突っ込まれて聞かれるとうまく話せない人もこの段階だと考えられます。
準備期/preparation
この時期から少しずつ行動への強化を加えたり、行動へのアプローチも考慮していく必要性があります。「1ヶ月以内に行動を変えようとする意志がある」段階です。始めるつもりがあり、また少し始めているが変容したという基準に達していないが過去1年に取るべき行動への情報収集(本を読む、相談する、自分でやってみる等)を行っている段階です。【チャレンジ】しては、失敗をしている時期でもあるので、【実行期】へと移行していくために【自信】をつけていけるような、段階的な行動へのアプローチが必要になってきます。
【前熟考期】〜【準備期】の段階では、実際に【行動変容】はしておらず、行動に実際に働きかけるというよりも、クライエントの【思考】【認知】に対してのアプローチを行っていく段階です。
実行期/action
「行動変容できているが6ヶ月以内」の段階です。行動が始まっており、それに対して【努力】もしているが、【再発】が最も多い段階です。有用であるとされる行動のみをカウントすることが必要です。例えば、タバコの本数を減らすなどでは【行動変容】には当てはまりません。またこの時期は、行動が安定して出現しているわけではないので、【モチベーション】を維持する仕組みや、行動できていない状況を【論理的】に整理して分析していく促しが望まれます。
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維持期/maintainance
「行動変容を維持して6ヶ月以上」の段階です。再発予防に努める時期で誘惑少なく、【自己効力感】は高く維持できている状態です。この段階には【行動変容プロセス】はあまり使用せず、自分で必要性に【気づき】、さらなる気づきを増やして実行していく時期とも捉えられます。
終了/termination
人間は非常に脆いもので、どんな段階でも不適切な行動が出現する可能性があります。【行動変容モデル】に関して、【維持期】の後、再び習慣を始める誘惑がなく、健康的行動をとる【自己効力感】が非常に高い状態で行動変化して5年程度を目安に終了段階に至ると考えられています。
留意点
各ステージにおいて行動,認知,心理のあり方が異なるため,各ステージに合わせた計画的なアプローチが重要です。従って,相手の行動を変えたいと考えるならば,まず相手がどのステージあるのかを知ることが重要になります。また、ステージはあくまで【主観的な判断】によるものなので当てはめるような【アセスメント】は意味をなしません。
このモデルで行動変容の全体像を把握する時の留意点を以下に記載します。
- 【行動変容ステージ】は、ひとつずつ上がる。線形というより【螺旋状】に上がり、戻りつつ進行する
- 行動変容とは、行動のみならず、【気づき】を持ったり、感情的な体験をしたり、【思考】が変わることも含む
- ステージに留まっていても,次のステージに近づいている進歩(前進)しているとみなす
- 変容が順調に進んでいても,進歩が止まったり,以前のステージに後戻り/【再発】もする
- 計画的な介入がなければ人はステージを移動することはない
- 【再発】は、例外というより日常的に起きる
変容プロセス(認知+行動的プロセス)
一般的に、各時期への効果的なアプローチとしては、以下のように言われています。
- 【前熟考】〜【準備期】対しては、思考/【認知的アプローチ】
- 【準備】〜【維持時】に対しては、【行動的アプローチ】
あくまで一般的であり、どの段階であるかどうかも【主観的】なものですので、ざっくりした全体像としての捉え方をしていくと考え、決してどクライエントがどの段階であるかということを当てはめることが「このモデルの目的があるのではない」を意識しておく必要性があります。
以下に各プロセスの具体的な中身をみていきます。
認知的プロセス
自分の経験から得られる、内面的な【意識】の変化や【行動】を変えようとする意図の変化による介入方法
意識の高揚/consciousness raising
原因や結果、対処方法への意識づけをすること。健康行動に関して言えば運動のメリットを知ることです。
例としては、
- 「☓☓について知っていました?」と尋ねる
- 「〜という解釈もできますね」と知識付与する
- メディア/雑誌等の推奨をする
感情的経験/dramatic relief
感情的に強い影響を受け、その後に適切な対処でその感情が解消する事。「ドキッ」としたり、このままでは「まずい」と思う体験のこと。
例としては、
- 知人の入院を知る
- 悪い結末の例を考える
環境的再評価/environmental revaluation
【行動変容】した場合としない場合での周囲への影響を考慮することです。
例としては、
- 他者の事例提示をする
- 家族の介入「お孫さんに臭いと言われなくなる」
自己再評価/self-revaluation
行動変容した場合の【自己イメージ】の変化を検討し、新たな【自己イメージ】を構築する。変容していない自分をネガティブに、行動変容した自分をポジティブにイメージする様なことです。
例としては、
- 「スマートな自分の姿を想像してみてください」考えさせる
- 健康的ロールモデルの提示する
社会的開放/social liberation
【社会的不利】な立場の人への教授や条例、法改正、環境調整、社会の流れを知ること。結果的にその他の人の行動変容も促進する。
例としては、
- 分煙
- ポイ捨て禁止条例
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行動的プロセス
周囲の環境から得られる、実際の行動の変化のプロセスによる介入方法のこと。
自己解放/self-liberation|コミットメント
自らできると信じ、積極的に取り組む事や運動をうまく行なえるという【自信】を持ち、行動することを周りの人に【宣言】すること。
例として、
- 新年の誓い
- 複数の選択肢から【自己決定】する
反対条件付け/counter-conditioning|行動置換
同じ目的を達成する為にできる代替行動に置き換えること/【行動置換】をすること。
例えとしては、
- お酒の代わりに運動
- 食べる代わりに運動
援助関係/helping relationship
信頼した相手からの健康な行動変容のサポートを活用する
例えとしては、
- 医療者
- カウンセラー
- コーチ
- 家族等の介入(信頼関係がある人であればOK)
強化マネジメント/reinforcement management
運動を続けていることに対して何らかの「ほうび/報酬」を与えること
例えとしては、
- 表彰
- 賞金
刺激コントロール/stimulus control
不健康な行動のきっかけを排除し、健康な行動のきっかけを加えること。
例えとしては、
- 灰皿の処分(禁煙)
- ランニングシューズの購入(体重減少)
- テレビの処分(受験生)
意思決定バランス
一般的に人は【行動変容】の意思決定を行う時に以下を例としたバランスを考慮します。
- 恩恵や負担
- メリットとデメリット
- 長所や負担
人間はメリットがある方が行動をしやすいもので、【ポジティブ】な恩恵に対する知覚を強化させ、【ネガティブ】な負担に対する知覚を減少させていくことが【行動変容】を促していくコツになります。【プラス】と【マイナス】の認知のバランスを保ちつつ、継続した行動を出現させていけるような介入を段階に応じて実施していくことが行動をベースとしたセラピーには求められると考えられます。人が行動を起こす場合は、【動機】と【能力】との関係性によってある程度行動を予測することもできます。
当人の意識レベルをメリット、デメリットという2極の意識から超越した段階に導いていくことが根本的な解決になるのは間違いありません。
(※人の意識レベルについては、以下をご参照下さい)
自己効力感/self-efficacy
特定の状況下での行動遂行に対する認知のことを【自己効力感】といいます。いわゆるどれだけ【自信】があるかということです。当たり前ですが、【自信】があればあるほど【行動変容】を起こす可能性が高くなります。人間の【行動】を、個人要因だけでなく、個人を取り巻く状況や自他の行動の相互関係によって人間の行動を捉えていくことが大切です。
【自己効力感】は、その人らしさを表す指標である【QOL】と密接な関わりがあります。
(※【QOL】については、以下をご参照下さい)
【自己効力感】を高めるコツは、2つです。
- 成功体験
- 代理的経験
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成功体験
自己の過去の成功体験や低いハードルから段階的に積み重ねていく様にします。自信は行動をし、挑戦しなければつくことはまずありません。
代理的経験
自分と似ている手本となる人の行動を観察し、手本の成功体験を【疑似体験】する方法です。
【セルフエフィカシー】の増加は、変容ステージの移行につながります。よって、いかに【自己効力感】を高められるかということが【行動変容】に関わります。
まとめ
- 健康的行動に変容していくにも【自信】が必要
- このモデルに対象者を当てはめるようなことは避ける
- 適切なアセスメントに基づくアプローチでないと効果が出ない
- 鍵を握るのは【自信】。しかし、【自信】は行動先行でしかつかない
- よって、【カルマ・ヨーガ】の道を勧めていく