浮腫

本記事では、以下の内容について解説しています。

  • 浮腫とは何かについて
  • 浮腫の原因について
  • リンパ浮腫と全身性浮腫の違いについて
  • 一般的な治療法について(日常生活の注意事項も含めて)
  • マッサージの方法について

浮腫

一日中の立ち仕事やデスクワークで座りっぱなしでいると夕方にかけて足がダル重くなったり、靴がキツく感じたりした経験のある方は多いと思います。これらは医学的には【浮腫】と言います。「むくみ」とスマホで変換すると【浮腫】とでます。【浮腫】とは、【全身性浮腫】と【局所性浮腫】の大きく2つに分けられます。立ち仕事などで夕方にむくむ症状は【起立性浮腫】といわれ、誰にでも起こり得ることで、そのこと自体は問題ありません。治療の必要もなく、適度な運動と食事が勧められます。また【浮腫】の中でもよく耳にする【リンパ浮腫】は、後者の【局所性浮腫】に含まれます。浮腫を確認したら、原因に応じた対応が必要になる為、基礎となる知識をもっておく必要性があります。


浮腫とは

【浮腫】とは、何らかの原因により【間質液】が増大した状態をいいます。皮下組織の【浮腫】が一般に「むくみ」と言われています。人間は立位をとることで、多くの利便性を獲得してきました。しかし、こと【浮腫】に関しては、重力の影響を受け、下肢の静脈に血液がうっ滞することで静脈圧が上昇し、「足がむくむ」という症状がでます。

(※人体システムと静脈の役割については、以下をご参照下さい)

上記したように【浮腫】は、血管外の皮下組織に【間質液】という水分が増大した状態のことです。毛細血管からは、血漿(血球を除く血液の液体成分)が滲み出し、細胞間を満たしています。これを【間質液】とよび、90%が毛細血管の細静脈側に再吸収され、10%がリンパ管に吸収されて循環します。リンパ管に流入した【間質液】は、【リンパ液】と呼ばれ、静脈とリンパ管には心臓へ向かう流れを維持して逆流を防止するための弁が存在します。

よって、過剰でうっ滞している水分を減らすには、以下の順に改善を求めていくことになります。

  1. 静脈の機能を改善
  2. リンパ管の機能を改善

筋ポンプ作用

リンパ液や血液を心臓に戻す作用として【筋ポンプ作用】が有名です。これは筋肉の収縮・弛緩に合わせて隣接する静脈弁が開閉することで、心臓方向に流す働きのことを【筋ポンプ/ミルキング作用】といいます。静脈弁を意図的に開閉することはできず、筋肉に依存することから下肢に滞った水分を還流させるには、筋肉の収縮・弛緩が重要だということです。

浮腫の分類

【浮腫】は大きく以下に分類されます。

  • 全身性浮腫
  • 局所性浮腫

【全身性浮腫】はさまざまな疾患に伴って発症します。一般的に立ち仕事やデスクワークの女性が夕方に足がだるくなる【浮腫】は【起立性浮腫】に分類されます。重力に抗することができなくなって下肢に水分がうっ滞するという原理は全てに当てはまるものです。

【局所性浮腫】は、原因不明の一次性とリンパ節を摘出するリンパ節郭清による二次性に分かれますが、ほとんどは二次性の浮腫です。血管神経性浮腫(クインケ浮腫)も【局所性浮腫】に含まれます。

全身性浮腫の分類

全身性浮腫の分類と代表的な疾患

  1. 心性浮腫:うっ血性心不全 等
  2. 腎性浮腫:ネフローゼ症候群、腎不全
  3. 肝性浮腫:肝硬変、門脈圧亢進症
  4. 内分泌性浮腫:甲状腺機能低下、月経前、甲状腺機能低下症
  5. 栄養性浮腫:低蛋白血症、アルコール依存症
  6. 薬剤性浮腫:消炎剤、降圧剤、NSAIDs
  7. 原因不明:特発性
  8. 妊娠性浮腫:妊婦高血圧症候群、正常妊娠

局所性浮腫の分類

局所性浮腫の分類と代表的な疾患

  1. 静脈性:静脈瘤、深部静脈血栓症、静脈血栓
  2. 炎症性:熱傷、関節リウマチ
  3. リンパ性:リンパ節郭清、リンパ管閉塞、リンパ管炎
  4. アレルギー性:薬剤、植物、虫刺され
  5. 血管神経性:クインケ浮腫(原因不明の一過性浮腫)
  6. 脂肪性:病的な脂肪組織の増加に伴う
  7. 廃用性:長期の寝たきり、麻痺
  8. 外傷・一般的手術の後遺症
  9. その他


起立性浮腫

【浮腫】の原理は意外と単純で、重力の影響で低い位置にうっ滞するので、立位であれば足部〜下腿部に貯留しますし、長期臥位では仙骨部に溜まります。長期臥床で仙骨部に水分が貯まることで皮膚も伸張されて傷つきやすくなります。圧迫を受けたり、擦れたりすることで問題となるのが【褥瘡/床ずれ】です。

(※【褥瘡】については、以下をご参照下さい)

しかし、【静脈】のポンプがしっかりと心臓に向かって水分を押し返していればむくむことはありませんが、何らかの理由で押し返すことができないと【浮腫】が認められます。

  • 静脈ポンプの不全
  • 弁がうまく機能せず、逆流している
  • 過剰な水分が皮下組織に発生している

リンパの流れ(循環)

集合リンパ管に弁はあるが、毛細リンパ管には弁がありません。また、刺激がないとリンパは流れません。リンパに運動を与えるものは、生体の運動としては以下のものがあります。

  • 筋肉ポンプ=運動
  • 横隔膜ポンプ=深呼吸
  • 心臓や動脈の拍動
  • 腸蠕動

その他には、【リンパケア】として外部からの圧や刺激があります。

浮腫の原因

1)体液が血管外へ漏れ出る量が増える

  1. 毛細管圧が上昇する(炎症性充血・静脈圧が上昇)
  2. 浸透圧の低下(アルブミン低下を来す肝硬変、ネフローゼなど)
  3. 血管透過性上昇(アルブミン漏出、火傷、炎症など)

2)体液の回収が低下

  1. 毛細血管圧上昇(静脈圧上昇:心不全、深部静脈血栓症)
  2. 膠質浸透圧低下(アルブミン低下)
  3. リンパ管系機能異常(フィラリア、リンパ行性ガン転移)
  4. リンパ管系形態異常(1次、2次リンパ浮腫)

3)組織の脆弱性

病態生理

リンパ管にも輸送できる限界があります。その能力の範囲内であれば正常に循環されますが、負担を与える物質による刺激によってその機能が失われる場合があります。

炎症や捻挫などでリンパ負担物質が増加することで、リンパ管の輸送能力は正常であっても浮腫が生じます。また手術などでリンパ管の輸送能力が低下する場合も同様に浮腫が認められますし、慢性静脈不全症候群などで、リンパの安全弁機能が低下しても浮腫が生じます。

浮腫の鑑別診断

浮腫が何から生じているかという鑑別を行うには様々な検査がなされる場合があります。

  • 血液、尿検査
  • 胸部X線撮影、心電図
  • 超音波断層法、超音波ドップラー検査
  • 体組成計(四肢別体脂肪測定)
  • CT
  • MRI
  • MRリンパ管造影検査
  • リンパシンチグラフィ
  • 蛍光リンパ管造影
  • リンパ管造影

リンパ浮腫と全身性浮腫の違い

リンパ浮腫 全身性浮腫
発症 慢性 急性
部位 片側が多い 両側
圧迫痕テスト 病期により異なる 陽性
組織貯留蛋白 多い 少ない
原因 リンパ管輸送障害 スターリングの均衡障害
利尿剤の効果 なし あり

深部静脈血栓症とリンパ浮腫の違い

深部静脈血栓症 リンパ浮腫
発症 急速 緩徐
部位 大部分片側性 両側性にもみられる
皮膚色 皮膚:赤紫色

下肢:腫脹

立位:暗紫色となりやすい

変色は少ない
痛み 伴いやすい 少ない
体毛 変化なし 一般的に患肢は多毛
合併症 二次性静脈炎 蜂窩織炎

合併症

  • 蜂窩織炎
  • 急性皮膚炎
  • 白癬症、皮膚感染症
  • リンパ水疱、リンパ漏
  • 皮膚潰瘍(慢性静脈不全症など)
  • 関節機能障害
  • リンパ管肉腫
  • 色素沈着


治療

一般的な治療をまとめると以下のようになります。

  • 原因除去
  • 利尿剤などの薬剤使用
  • 静脈性の場合は、ハドマーの使用
  • 浮腫部位の高位保持
  • スキンケア
  • 末梢から中枢へのマッサージ(リンパドレナージ)
  • 温熱などによる血流改善
  • 運動療法

原因によっては、非適応や禁忌となる場合があるため、安易に試すことも考えものです。夕方に浮腫む程度のもの以外は医師の診断を受けましょう。また各々に対して悪化要因を指導し、日常生活上での注意を促されます。

スキンケア

患肢の皮膚はナイーブな状態であるため積極的なケアが必要になります。患肢の感染をキッカケに増悪となるために感染予防は大切

用手的リンパドレナージ

浮腫の原因となっているリンパ流障害部位を迂回し、正常なリンパ管系までリンパ液を誘導するために行います。また患肢の状態確認も同時に行えます。主な目的をまとめると、以下のようになります。

  • 貯留したリンパ液を適切な方向に導き排液する
  • 皮膚状態を改善させる

一般的な効果をまとめると以下のようになります。

  • リンパ液の流れを改善し、生成を促進する
  • リンパ管の自動能の活性化
  • リンパ管輸送能力の向上
  • 肥厚した結合組織の状態改善
  • リンパ液の排液により体液環境が改善され、浮腫軽減
  • 運動制限が改善され、日常生活の安楽性が向上する
  • 炎症リスクを低下させ、増悪防止
  • 精神的苦痛の緩和(QOLの向上)

(※【QOL】については、以下をご参照下さい)

基本的な方法の注意点

手で循環を改善することを目的に実施されますが、直接外力を与えるため触り方には細心の注意が必要です。基本的なポイントとなるのは、

  • 手掌を直接皮膚面に密着させ、やわらかく大きく皮膚を動かす
  • ゆっくりとした軽めの圧で行う

接触面積をできるだけ増やし、一部に圧が偏らないようにし、皮膚を無理に引き伸ばしたりしないように注意をします。

マッサージ

一般的なマッサージとは異なりますので、専門家の指導を仰ぐことが必要です。ここでは一般的に以下の三段階に分けて考えていきます。

  • 前処置/準備運動
  • 患肢のマッサージ
  • 後処置

前処置

  • 肩回し
  • 腹式呼吸(横隔膜ポンプ)
  • 健康なリンパ節と患肢の境目を流れる道作りの為に、自分で動かしたり、マッサージをする

患肢のマッサージ

以下が簡単な図になります。健康な部分と患部との流れを促していきます。また後処置において最終的に、健康なリンパ節までリンパ液を再誘導することに努めていきます。

リンパマッサージ

圧迫療法

弾性包帯や弾性ストッキングによる圧迫がなされます。それぞれにメリット・デメリットがありますので、解説していきます。

弾性包帯 男性ストッキング
利点
  • 圧迫力が調整できる
  • 状態に合わせて使用できる
  • 主に浮腫の改善に使用
  • 外出や日常生活でも邪魔になりにくい
  • 患肢の状態で使い分け可
  • 浮腫の悪化防止
欠点
  • 外出には不向き
  • 圧迫方法が複雑
  • 重症例には使用困難
  • 方法を誤ると悪化する
  • 着脱にコツがいる

それぞれ一長一短なので、しっかりと適応を見分けて、継続できるような方法を選ぶことがポイントです。

圧迫療法の禁忌

このような圧迫療法における禁忌ももちろん存在します。

  • 感染症による急性炎症
  • 心性浮腫
  • 心不全
  • 閉塞性動脈硬化症
  • 強皮症
  • ズデック症候群(反射性交感神経性ジストロフィー)

相対禁忌(基本的には禁忌だが、条件により認められるもの)

  • 高血圧
  • 狭心症
  • 不整脈
  • 関節リウマチ
  • 糖尿病
  • 感覚障害
  • 乳幼児 など

これらは、医師の状態確認が必要になります。


運動療法

筋肉運動がリンパ管を刺激して、リンパ液が多く排除することを目的に運動療法も行われます。上記の圧迫下での運動療法を行うことで排出を促進させることもできるとされています。

複合的理学療法の禁忌

【複合的理学療法】とは、上記したようなリンパ浮腫に対する保存的な療法です。医学的に検証された4つの主要素の方法です。

  • スキンケア
  • 医療リンパドレナージ
  • 圧迫療法
  • 運動療法

これらを個別の症状に応じて実施し、セルフケア指導(患肢挙上、生活リスク管理など)により奏功効果を生み出しますが、もちろん禁忌もあります。

  • 感染症による急性炎症
  • 心性浮腫
  • 心不全
  • 下肢静脈の急性疾患
  • 悪性腫瘍による浮腫(ケースによる)

基本的な対応(リンパ浮腫の場合)

  • 患部に貯留した間質液をできるだけ体幹部に戻す
  • 細くなった患肢に圧力をかけることで、浮腫が軽減した状態を維持する
  • 薬物療法はあくまで二次的な役割であることを理解する

日常生活での注意点

  • 高齢で肥満であれば患肢を下垂する時間が長く、運動が少なく筋肉ポンプが使われない。また肥満で静脈を圧迫するなど静脈うっ血を来しやすい
  • 患肢の暗星や挙上だけでなく、椅子への座り方や簡単で効果的な運動の指導
  • 皮膚を傷つけない
  • 深爪をしない
  • かみそりの使用はしない
  • 患肢に鍼灸はしない
  • 虫刺されやペットによる掻き傷に注意する
  • 長時間の温泉浴やサウナ浴は避ける
  • 長時間の同一姿勢で仕事をする場合は、時々手足を休める
  • 重いものはできるだけ小分けに
  • 体重のコントロール

まとめ

これらの方法が保存的療法であることには変わりありません。【複合的理学療法】として上記しましたが、治療方法よりも【診断】が重要視されます。明確なアセスメントの上に行われなければそれは治療と呼ぶことはできません。しかし、一般的な知識をもっていることで、セラピストとの話が理解しやすくなり、具体的な話をすることが出来るのは確かと考えられます。