近年少しずつ、理学療法士という認知度は向上しています。しかし、「正確な理解をされているかどうか?」と問われると疑問があります。
また、この認知度向上の要因は何でしょうか?
以下に考えられることを挙げてみました。
- 理学療法士がエビデンスを蓄積して、地位を築いている
- セラピストとしての成績がよいと理解されてきている
- 社会に必要な職業だと認知されてきている
- 高齢化により、需要が高まった
上の3つであれば良いのですが、穿った見方かもしれませんが私個人としては、残念ながら4番目の高齢化の影響が強いのではないかと思います。
悪く言えば、理学療法士の技術で認知度が向上したのではなく、高齢化により必然的に需要が高まった影響だと考えています。いわゆる「リハビリの先生」とざっくりとした理解で認知されてしまっている印象を個人的に感じています。
この仮説が正しければ、危機的です。人から求められることを解決していくことは大切なことですが、クライエントや患者は、理学療法士が何ができる人なのかをよく理解できていません。今だに「理学療法士=マッサージをしてくれる人」と理解している介護関係者がいます。
何でも屋さんはとても都合が良くて「痒いところに手が届く存在」なのですが、裏を返せば、専門性の低さを露呈しています。今こそ原点回帰をしなければなりません。
「社会的課題の解決しつつ、本来の専門性を高める」に尽きます。
現代にあった技術開発を積極的に実施し、本来あるべき土俵を開拓していく必要性があります。需要を満たしていくという方向性だけでは、将来性はありません。
組織に魅力を感じないセラピストが増えているのも確かにうなずけます。そこでここでは以下のことについて解説していきます。
- 理学療法士にまつわる法律関係について
- 医療行為の線引ついて
- 無資格マッサージ問題について
- 「治療」というワードは医師以外は使用禁止であることについて
- 守るべき守秘義務について
しかし、まずは職域などの正確な理解が必要ですので、法的な業務範囲などについて記載していきます。
理学療法士法における定義
理学療法士業務の法的根拠となるのは、昭和40年6月29日公布された【理学療法士及び作業療法士法】に示されています。
この法律で「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行わせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう。
第1章 第2条
この法律により、理学療法士の対象と目的と手段にわけると以下の通りに示されます。
- 対象:身体に障がいのある者
- 目的:基本動作能力の回復を図る
- 手段:治療体操、運動、電気刺激、マッサージ、温熱やその他物理的手段を加えること
また理学療法ガイドラインには、以下のように示されています。
対象となる、身体に障がいのある者とは、法律制定当初の身体障害者福祉法に係る対象者の範囲より広く、永続的であるとか、一時的であるとかに関わらず、疾病ないしは先天的な異常によって身体の諸機能(精神機能を除く)になんらかの障害を現に有するものはすべてこれに含まれると考えられる。
一部改変:理学療法ガイドライン
理学療法の主な目的が【基本的動作能力】に限定されるのであれば、対象者は【基本的動作能力に障がいのある者】に限定されます。
基本的動作能力
- 寝返り
- 坐る
- 立つ
- 歩行
- その他移動動作
- 手や体の曲げ伸ばし
人間としての基本的といえる運動能力のことです。
この運動の障がいの原因は多岐に渡り、神経系や内部障害に生じる場合があり、明確に線引するのも困難と考えられています。
理学療法は法的には「診療の補助」なのか?
「医師法第17条」において、以下のように定められています。
医師でなければ、医業をなしてはならない。
引用:医師法
医業とは、「業として、医行為(医療行為)を行うこと」です。
医師法により、医師および医師の指示を受けた看護師・助産師などの医療従事者のみ行うことが認められている治療や処置などのこと。医学的な技術・判断がなければ人体に危害を及ぼす危険がある行為の総称。
引用:コトバンク
「医療行為」は、以下の2種類があります。
- 医師以外ができない「絶対的医行為」
- 医師の指示の下で実施可能な相対的医行為=「診療補助行為」
「絶対的医行為」の代表例は、以下です。
- 外科手術
- 薬の処方
理学療法士に関しては、後者の「相対的医行為」いわゆる、診療の補助が関わります。
(法律からの引用ばかりでつまらないかもしれませんがお付き合いください)
理学療法士の業務に関しては、2つの法律が示しています。
第15条
理学療法士又は作業療法士は、保健師助産師看護師法 (昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項 及び第三十二条 の規定にかかわらず、診療の補助として理学療法又は作業療法を行なうことを業とすることができる。
2.理学療法士が、病院若しくは診療所において、又は医師の具体的な指示を受けて、理学療法として行なうマッサージについては、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律 (昭和二十二年法律第二百十七号)第一条の規定は、適用しない。
- 1項に関しては、理学療法が医療行為である根拠となる部分になります。
- 2項に関しては、理学療法の範囲で「マッサージすることは違反ではありません」という旨が記載されています。これはあくまで「理学療法の範疇においては」という意味です。
無資格マッサージ士問題
マッサージは、国家資格である「あん摩マッサージ指圧師」の業務独占規定に当たるものです。その解釈の拡大により無資格でのリラクゼーションサロンの横行が近年問題視されています。
法律上マッサージを行えるのは、以下の職種のみです。
- 医師
- あん摩マッサージ指圧師
- 理学療法士
- 看護師(解釈により可)
憲法においてもですが、グレーな部分が多いのも医療業界の特徴です。
曖昧であることは、柔軟性があるとも言えます。このあたりはあまりつつかずにしている方が良いと思います。しかし、柔軟性がある反面、その時代の情勢に大きく左右されてしまうので、解釈については、常に動向を払っておく必要性があります。
理学療法士に業務独占規定はあるのか?
理学療法士に「業務独占」規定があるかと言われると、基本的にありません。
しかし、診療の補助行為として理学療法を業とすることが許され、無資格者では許されない部分を占有し、一般には禁止されていない種類のものも理学療法業務には含まれています。
【保健師助産師看護師法】(以下、保助看法)で定められている「診療の補助行為」としては、【理学療法士及び作業療法士法】において許可されているため、厚生労働省の見解としては、業務独占であるとも言われています。
しかし、一般的な解釈として理学療法士は「名称独占」規定のみに当てはまる資格です。
その理由を示した法が以下です。
理学療法士でない者は、理学療法士という名称又は機能療法士その他理学療法士にまぎらわしい名称を使用してはならない。
医師の指示外でも、名称の使用は認められた
理学療法士は基本的には、「医師の指示の下に理学療法を行うことを業とするもの」ですが、平成25年11月27日の厚生労働省医政局通知によると、
理学療法士が、介護予防事業等において、身体に障碍のない者に対して、転倒予防の指導等の診療の補助に該当しない範囲の業務を行うことがあるが、このように理学療法以外の業務を行う時であっても、「理学療法士」という名称を使用することは何ら問題がないこと。また、このような診療の補助に該当しない範囲の業務を行う時は、医師の指示は不要であること。
例えば、
「脳卒中後の後遺症で転倒リスクの高い者に対しての転倒予防の観点からの介入に関しては医師の指示は必要がない」と理学療法士協会指定の研修会で聞きましたが、どうなんでしょうか?
「グレーかな?」としか言えない現状です。
この通知だけでは現場の感覚としては、あんまり変わらないと思う人が多いのではないでしょうか。またこの通知後に拡大解釈のもと、理学療法士という名称を看板に開業をする理学療法士が多数現れたと言われ、協会として統率のとれていない事実を露呈している事件だと感じます。
通達の真意は?
医療従事者は安定していて高給取りな印象だというお話をよく耳にするのですが、収入は一般的な会社員よりもちょっと少ない程度です。(その代わりとなる利点はいくつかありますが)
特に理学療法士に関しては、高齢化によって需要が伸びていますが、高齢化も一過性です。いつか落ち着くので、高齢化によって需要が伸びたのであれば、高齢化の落ち着きによって、需要も少なくなります。個人的には、現在でも供給過多だと思っています。
理学療法士の専門性は、介護保険下では活きません。よって、効果がでない⇨低価値となります。
理学療法士が低価値だとは、思っていませんが、介護保険下での活躍は難しいと考えています。ただ現在は、人手不足なので、今でも毎年1万人程の理学療法士が誕生しています。
上記の通達で許可しているのは、あくまで予防の範囲であれば、「理学療法士として活動していいよー」と認めているのですが、本心は、「もう職域を拡げて理学療法士の雇用を守るのが限界だから、予防事業として独立するか介護者に転向するかどっちかにしてー、お願いー!」ということを言っているということということです。
なので、予防として活躍していくことには、個人的に賛成しています。
「でも、何を予防するの?」と思っています。
病気ありきで、病気を予防するのであれば、理学療法士の専門性が強く活きるところですが、「何を予防するのか?」一言に健康増進といっても、「健康とは何か?」をよく考えてから行動することが勧められます。
治療は医師だけが可能
医師でない者は、決して「治る、治療する、診断する」という言葉を使用することはできません。
これらの言葉の仕様は、法的問題が生じるために、厳禁です。また確約できない「必ず改善する」「3ヶ月で必ず大丈夫」という言葉も使用しないことが求められます。
よって、「3ヶ月で変化が認められることがあります」などの言葉に置き換える必要があります。
インターネット上のサイトでは、「治療」や「治る」という記述がされているものも認められますが、厳に慎むことが求められます。しかし、「マッサージ」を「リラクゼーション」と言い換えるのと同様に「治療」を「セラピー」と表現することに関しては許容されている面があります。
それでも言葉の使用方法には、細心の注意を払う態度が求められます。
守秘義務に関して
どの職業に関してもあることですが、特に最近、守秘義務は強く言われています。情報漏えいは、一瞬で信頼を失いますので厳に慎むべき事柄です。
第16条 理学療法士又は作業療法士は、正当な理由がある場合を除き、その業務上知り得た人の秘密を他に漏らしてはならない。理学療法士又は作業療法士でなくなつた後においても、同様とする。第21条 第十六条の規定に違反した者は、五十万円以下の罰金に処する。
ここで挙げられている正当な理由とは、以下が該当します。
- 本人の同意がある場合
- 法律上で届け出が義務付けられている場合
- 患者について犯罪の疑いがある場合
- 公的機関より証言を求められた場合
上記以外の理由に触れ、告訴されれば、第21条の通りとなる場合があります。他人事ではありませんので、謹んで日々の業務に望む必要があります。
理学療法士賠償責任保険
理学療法士個人として業務上の過失により損害賠償請求を受けた場合で法律上損害賠償を負担する場合、その損害を補償する保険制度が登場しています。
事故が起こらないように細心の注意を払うのは当然ですが、避けられない場合もあります。
実際に訴えられる事案も発生しています。またその「使用者」となる病院や会社が保険に入っていてもカバーしきれないケースもあります。
今や使用者だけではなく、医療に携わった者の個人責任も追及される時代です。下記の日本理学療法士協会のサイトを参照下さい。
実はPTにチーム医療の記述はない
不思議なことにPTOT法にはチーム医療の重要性の記述はありません。
他の義肢装具士や言語聴覚士法には、医療関係者との緊密な連携を図るという文があるものの、理学療法士法にはありません。
これは「チーム医療に参加しなくても良い」という意味ではなく、それだけ古いままの条文であり、現代の社会情勢にマッチしていない法律であるということです。
各関連職と綿密な連携により、各専門職のスキルを最大限に発揮して、患者の「QOL」を向上することが求められる現代に、理学療法士に求められないわけがありません。
原点回帰するにも原点はどこ?
文頭に「原点回帰をしないといけない」と書きましたが、理学療法士の歴史は非常に浅いので、日本にとってその原点がありません。歴史のある団体であれば、正攻法も持っているかもしれませんが、理学療法士には、その正攻法がありません。本来の専門性といっても、現在も歴史を作り上げている途中なので、現状否定をしつつも建設的に時代を進める1手をうつことができるのが「理学療法士」だと考えています。
型にはまらずに、自由な発想で楽しいことをしよう。型なんてないんだから。
まとめ
理学療法士は、時代を底支えするだけの便利な存在に落ち着くべきではないと考えています。ピンチであるからこそ、変化するべきだと思います。
現代は理学療法士の特徴が非常に活きやすいフィールドであると思っています。状況を把握しながらも独自の進化をしていく必要性があります。
- チームで取り組む為にも、相互理解は必要
- 解釈は拡大できるが、慎重に捉える必要性がある
- 基本的に理学療法士は「医師の指示の下」ということに変わりはない
- 社会の課題解決をチャンスと捉え、独自の進化は常にしていく必要性がある