本記事では、
- 痛みの基礎知識について
- 痛みを感じるメカニズムについて
- 異なる観点からの痛みの分類について
を紹介しています。
痛みは、私たちの身体の異変や異常を知らせる1つのサインと言われ、必要な感覚です。しかし、常に痛みに見舞われていることは非常に苦痛なことです。痛みが慢性化することで別の痛みを併発し、痛みを複雑化させてしまうことがあります。適切な処置を受けたり、セルフケアをしていくためにも痛みについての知識が必要になります。筋肉痛のような日にち薬といわれるような痛みの場合は、安静にすることでよいかもしれませんがそうでない、医師にすぐに相談しないといけない痛みも存在します。
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痛みの役割
痛みとは、「不快な感覚であり、不快な情動を伴う経験」とされています。
また痛みは、「5番目のバイタルサイン」とも言われ、生体防御には不可欠で重要な役割を果たしています。
- 脈拍
- 血圧
- 呼吸
- 体温
- 痛み
痛みを感じることは不快な感覚であるのは確かですが、内外部からの危険信号の役目が果たしています。痛みがなければ、身体のなんらかの不調を感じることもできずに、いつの間にか蝕まれていく可能性もあります。この意味において、痛みは私たちが生きているという証とも言えます。しかし、「痛み/不快な体験」が、慢性的に続いたり、原因がわからない場合、大きなストレスとなり、ほかの病気を引き起こし、痛みをさらに複雑化させてしまうことになり兼ねません。そのため、ある程度は痛みを理解し、医師の指示を仰ぐ適切な治療を受ける必要性があります。
痛みは必要なものでありますが、生命維持と関係のない痛みはその人の人生の質を低下させてしまう大きな要因となります。医療の中の共通概念であるQOLを大きく損なうのも痛みです。
(QOLについては、以下をご参照下さい)
痛みの定義
国際疼痛学会/IASP(International Association for the Study of Pain)によると、痛みを以下のように定義しています。
An unpleasant sensory and emotional experience associated with actual or potential tissue damage, or described in terms of such damage.
実際に組織損傷が起こったか、あるいは組織損傷の可能性があるとき、またはそのような損傷を表す言葉によって述べられる不快な感覚と情動体験
よって痛みは、主観的な感覚・感情である為,患者が痛いといえば痛みが存在すると考えるのが一般的とされています。
痛みを感じる仕組み
手を切ったり、火傷やどこかに身体をぶつけたりすると、「身体が傷ついた」という信号が末梢神経の先にある「痛みセンサー/侵害受容器」が受け取ります。センサーが興奮することで末梢神経に痛みの刺激が伝わります。脳がその「刺激/情報」を認識して初めて「痛い」と感じます。
一般的には、痛みの原因の怪我が治ると痛みも消えていきます。
神経は大きく3つに分類されます。
- 中枢神経系(脳や脊髄など)
- 自律神経系(交感神経と副交感神経)
- 末梢神経系
末梢神経は太さによって分類され、伝える刺激が異なります。痛みを伝達するのは、主に2種類の神経です。
- Aδ線維:少し太め(直径2~5μm)。痛みを素早く中枢神経に伝える。
- C線維:細い(直径0.4~1.2μm)。少し遅れて痛み刺激を伝える。
小指をぶつけて、「痛い!」と反射的に痛みを感じ、その後にじんわり痛みが湧いてくるのは、このためです。
痛みの分類
痛みは、様々な観点から分類することができます。ここでは、以下の観点から分類します。
- 持続時間
- 発症機序
- 発生部位
持続時間による分類
- 急性疼痛:生体防御のための危険信号であり、短時間で治るもの
- 慢性疼痛:急性疼痛から移行した痛み
- 混合性疼痛
慢性疼痛の持続時間については、明確な定義が存在はしませんが、1〜3ヶ月続く痛みが慢性痛とみなすこともあります。一般的には、3ヶ月、6ヶ月が急性と慢性痛で区別されています。
慢性痛であるかどうかは、急性疾患の通常の経過や総称の治癒な妥当な時間かどうかでも異なる為、明確な定義が難しいところです。
発生機序による分類
- 侵害受容性疼痛
- 神経障害性疼痛
- 心因性疼痛
上記3つに分類することができますが、慢性痛を抱えている方は、これらが重複して存在していると考えられています。
侵害受容性疼痛
侵害刺激(機械的刺激、熱刺激、冷刺激、化学的刺激など)とそれに伴い産生した発痛物質(ブラジキニンなど)が末梢神経終末の侵害受容器を刺激して起こる痛みのことです。いわゆる怪我やヤケドなどをした時の痛みです。怪我をすると炎症が起こり、痛みを誘発する物質が発生します。この物質が神経終末の侵害受容器を刺激して痛みを感じることから侵害受容性疼痛と呼ばれています。この疼痛の多くは急性痛とされています。
代表例が、肩関節周囲炎や腱鞘炎、関節リウマチなどがあります。ほとんどの痛みはここに含まれます。
痛みのメカニズム
侵害受容性疼痛は、神経終末の侵害受容器が刺激されることで起こります。
上図を参照の上、以下のような順序で痛みという感覚が発生します。
- 侵害刺激や発痛物質によって、神経終末の侵害受容器が刺激される(→侵害受容器が刺激を受け、神経線維に脱分極が起こり、脱分極がある閾値にまで達すると、活動電位(インパルス)が発生)
- インパルスが神経線維(Aδ繊維、C繊維)を伝達
- インパルスが脊髄後角に到達し、脊髄視床路を上行して視床に到達
- インパルスが大脳皮質に到達し、「痛い」という感覚が発生
感覚を伝える神経線維には、
- Aδ線維:痛覚
- C線維:痛覚
- Aβ線維:主に触覚、圧覚(痛覚の調整にも関与)
さらに
- Aδ線維:主に皮膚を切った時に感じるような鋭痛(1次痛)に関与。有髄神経線維で、伝達速度は12〜30m/秒
- C線維:主に鋭痛の後の余韻のように感じる鈍痛(2次痛)に関与。無髄神経線維で、伝達速度は0.5〜2m/秒
神経障害性疼痛
神経の損傷あるいは、それに伴う機能異常によって起こる痛みのこと。様々な知覚異常を伴います。侵害受容器を経由せず、神経系が自発的に興奮して起こります。病態や発症機序が複雑であり、従来の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:Non-steroidal anti-inflammatory drugs)では、十分な効果を得られず治療に難渋することが多い疼痛とされています。消炎鎮痛薬は病気の根本原因に対して使用するものではなく、症状に対して使用する対症療法であることを理解しておくことが重要です。
IASP(国際疼痛学会)では、神経障害性疼痛を以下のように定義しています。
Pain arising as a direct consequence of a lesion or disease affecting the somatosensory system.
「体性感覚系に対する損傷や疾患の直接的結果として生じている疼痛」
代表例に、帯状疱疹後神経痛や糖尿病神経障害に伴う痛み・しびれ
(※NSAIDs:痛み止めや熱冷ましとして使用されるもの。消炎作用・鎮痛作用・解熱作用を持つ消炎鎮痛薬の総称。有名な商品名では、ボルタレン®やロキソニン®など)
様々な知覚異常として、以下を特徴とします。
- アロディニア:本来なら痛みを引き起こさない程度の刺激で感じる痛み
- 痛覚過敏:軽微な痛み刺激を激しい痛みと感じる
- 自発痛:刺激には依存しない自発的な痛み
神経障害性疼痛の発生機序
神経障害性疼痛の発生機序は明確にはなっていませんが、多くの要素が関連していると考えられています。代表的な考え方として、
- 末梢性機序:末梢神経系(神経終末〜脊髄後角)の異常
- 中枢性機序:中枢神経系(脊髄後角〜大脳皮質)の異常
中枢性神経障害性疼痛は中枢性機序が関与し、末梢性神経障害性疼痛は末梢性機序と中枢性機序の療法が関与していると考えられています。
心因性疼痛
器質的な病変がなく、心理的な要因によって生じる痛みのことです。WHOによる国際疾病分類では身体表現性障害、米国精神医学会のDSMーⅣ(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder 4th edition)では疼痛性障害に分類されています。
これらの概念としては、以下のように捉えれています。
- 器質的病変がなく、痛みの原因のすべてを心理的な要因が占める場合
- 痛みを生じる原因として器質的、身体的病変が存在するものの、痛みの訴えの説明には不十分な場合
心因性疼痛の多くは、心のみに原因があるということではなく、多くの要因(生物学的、心理的、社会的、行動要因)が複雑に関与する可能性があるので注意が必要になります。「原因がわからない痛み=心因性疼痛」ではないという理解が必要です。
発生部位による分類
痛みを感じる場所で分けると、
- 体性痛:限局した身体の表面の痛み
- 内臓痛:内臓の痛み。部位は不明確で締め付けられるような特有な痛み
- 中枢痛:脳または脊髄由来の痛み。侵害受容器が強く刺激されたかのような強い痛み
- 関連痛:原因とは離れた部位の痛み。
体性痛はさらに、以下に分類されます。
- 表面痛:皮膚や粘膜の限局した侵害刺激による痛み。火傷や打撲など。
- 深部痛:骨膜、靱帯、腱、筋膜、骨格筋などの痛み。1次痛と2次痛の区別は不明確
慢性化した痛み
急性痛は原因となるケガや病気が治れば消失しますが、適切な対処をしなければ痛みが別の痛みを引き起こし、慢性痛となる場合もあります。痛みは、非常に強いストレスとなります。交感神経と運動神経を興奮させ、発痛物質の発生につながります。一般的に、痛みは生じても交感神経の興奮はすぐにおさまりますが、痛みが慢性化することにより、血行状態の悪化も慢性化し、発痛物質を多く発生させます。この発痛物質は、血管収縮により血行を悪化させ、さらなる発痛物質の増加という、悪循環を引き起こします。
慢性化した痛みは、原因が複雑化するため、初めの原因が治っても、痛みを取り去ることが難しくなります。慢性痛によるストレスで、痛みに過度に反応してしまったり、心因性疼痛とも重複してさらなる悪循環に陥ることにもなります。
病院は行きたい場所ではないかもしれませんが、適切な処置を受けることで、複雑化する痛みの連鎖を断つこともできる可能性があります。ご自身のことは、ご自身が一番良くわかるものですので、我慢し過ぎないようにすることも必要です。
健康増進していくには、痛みは重要な阻害因子ですので、適切なケアをしていくことが勧められます。
(理想的な健康観については、以下をご参照下さい)
まとめ
- 痛みと言っても原因のわかりやすいものとそうでないものがある
- 慢性化する痛みは、原因が特定しにくい
- 慢性化する前に適切なケアを受けることが大切
- 痛みについての知識をもっていることも大切
- 慢性痛は、人体に多大なストレスを与え、QOLも低下させる