本記事では、以下の解説をしています。
- 人の心を決定する【トリ・グナ】理論について
- 暗性もネガティブな要素だけではなく、ポジティブな側面もある
- 善性優位である必要性について
- 心身の相関関係について
サーンキヤ哲学は2元論において、【プルシャ】と【プラクリティ】という2つの原理を立ています。観照するだけのプルシャに対して、プラクリティは自らあらゆる現象世界を作り変えていく活動的な原理とされています。
(※サーンキヤ(学派):インド六派哲学の一つ。同じく六派哲学のヨーガと理論的には同様とされている)
(※プラクリティとプルシャについては、以下をご参照ください)
【プラクリティ】は、根本的な質料因であり、心や肉体、感覚器官、意識にまで転変します。プラクリティは3つのグナから成り立ち、プルシャの観照をキッカケに3つのグナのバランスが崩れ、様々な物質に変化していきます。
- サットヴァ/善性
- ラジャス/動性
- タマス/暗性
人間の性格に関しては、サーンキヤ哲学では3種のグナによって作られていると考えられ、個々の性格は先天的に3つのグナに帰依されると考えられています。
(※人は3種の徳性を全て備え、どれかの徳性が強く出ているだけで、1つのグナしか持っているということはありえないとされています。)
そこで今回は、心や運動器官、人の性格のもととなるプラクリティに含まれている3つのグナ/心の気質について解説していきます。
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トリグナとは
【心理的病素/体の性質】が身体になくてはならない要素であるのと同様、【心の性質/トリグナ】は、心のエネルギーとして知られる3つの重要な要素を意味しています。
【トリグナ】とは、
- トリ/3
- グナ/特性・性質
以上の意味の言葉から成立しています。
【プラクリティ】は、この現象世界全ての原因物質であるため、この世界の全てのものは3種のグナによって作り上げているものであると考えられます。
3つのグナとは、
- サットヴァ・グナ
- ラジャス・グナ
- タマス・グナ
3つのグナのバランスが保たれている状態は、プラクリティは静止した状態ですが、3つのバランスが崩れるとプラクリティが下記の順に転変していきます。
- プラクリティ
- ブッディ
- アハンカーラ
- 十一器官(マナス+5感覚器官+5運動器官)
- 5微細元素
- 5大元素
転変したものは心理的なもの、精神的なもの、自然現象や物質にしても全てこの3種のグナを有しています。
サットヴァ・グナ
- 軽さ
- 純粋さ
- 良心
- 感覚の活性化
- 喜び
という性質をもっています。
悟りや智慧の本質であると言われ、精神集中や気づき、智慧に関与しており、満足や歓喜、至福などの喜びをもたらすものです。理想的な心の状態は【サットヴァ】とされ、サットヴァ気質の人は、思慮深く、穏やかで、優しいとされています。
日常生活上で目立つ特徴は、
- 物事を公平に見る事ができる
- 正確な判断を下す事ができる
- ピュアな人で、素直な人
- 少しのことでイライラしない/動揺しない
ラジャス・グナ
- 活動的
- 落ち着きがない
- 不安
- 移り気さ
- 欲望
- 野心
という性質をもっています。
心は活動的で、情熱的で燃えやすいのですが、バランスが崩れると攻撃的や怒りという心の粗い面をも持ち合わせています。心が活動的であるが故に、現在を客観的に観ることができず、エネルギーを無駄に消費してしまい、肉体の疲労にも気づくことができません。
日常生活で目立つ特徴は、
- 感情に左右される
- 肉体の疲労に気が付かず、異常に働く
- 自分一人で喋り続ける
- 妬みや嫉妬心が強い
- 思い通りにならないと感情を爆発させる
タマス・グナ
- 暗さ
- 重さ
- 怠惰
- 妄想
- ものごとを覆い隠す
- 誤った知識
- 眠気
という特性を持っています。
不活発で貧欲、惰性の心の状態の本質で、ネガティブなイメージの特性を持ちます。【サットヴァ】の対になるような性質をもち、バイタリティに欠け、執着心が強く、自分の為ならば他人に傷つけることもあります。
日常生活上で目立つ特徴は、
- 無気力で協力的ではない
- ネガティブで破壊的な思考に至る人
- 苦手な状況ではすぐに逃げ出そうとする
- 自殺願望のある人物
バランスが大切
伝統的ヨーガの理想でも、私たちの心身状態ができるだけ【トリ・グナ】のバランスが取れ、善性優位な状態でいる事だと言われています。
サットヴァ優位な状態の例えは生まれたての赤ちゃんです。しかし、社会生活で日々様々な体験をし、時には自分の波長に合わない人と話したり、過度なストレスを感じる状況ではトリ・グナは乱れやすくなります。
暗性とは不活発な状態、動性とは極めて活動的な状態と考えられ、人間の心で言えば、暗性優位な状態とは、抑うつ状態、動性優位の状態とは、俗世の諸欲に引きずられている状態と言えます。これらの3徳は占める比重が変化することでいつも人間の心身状態を決定していると考えられます。
私たちにとって必要なのは、できるだけ心身状態を善性を優位にさせる努力だと考えられています。即ち、暗性や動性の割合を少なくさせながら生きてゆく努力が必要になります。ここでバランスを維持する取り組みが【ヨーガ】というわけです。
例えば、【ラージャ・ヨーガ】の【八支則/アシュタンガ・ヨガ】の修行すべてが、【3徳/トリ・グナ】を善性優位にさせる努力になります。
(※八支則については、以下をご参照下さい)
善性優位に保つには、単にアーサナやプラーナーヤーマや瞑想を行じるだけではなく、善き指導者の元で伝統的な智慧に自らを照らし合わせて上手に生きていく必要性があるということです。
タマスとラジャスにもポジティブな側面がある
3つのグナのそれぞれが影響し合いながらバランスを取っているので全ての徳性は必要です。ラジャスとタマスも否定される対象ではなく、ポジティブな側面も持ち合わせています。【ラジャス】は、サットヴァとタマスにエネルギーを与えています。
例えば、
- タマス・グナは睡眠や休息を担っており、ラジャシックな過剰な働きを抑制する
- タマスの怠惰からラジャシックが抜け出す作用をも与えている
3徳がどれが優れているというわけではなく、バランスがまず大切なのです。そしてサットヴァ優位であることが理想的だと言われています。なぜなら、善性優位でバランスが取れていると偏りのない思考で正しい選択や判断を下す事ができます。
また、善性と動性の心を持っている場合は、
- 積極的に働き
- 運動すること
によって無気力さを克服できます。
また、喜怒哀楽に正直で楽しい時に笑い、悲しい時に泣ける素直で正直なのもサットヴァの徳性です。理想はトリグナのバランスが取れてより善性優位でいる事です。
その為には
- サトヴィックな食べ物を食べる
- 感謝の気持ちと敬意を払う
- 謙虚さと誠実さを持つ
- 人に嘘をつかず
- 自分の心と感情にも正直でいる
- 快適な環境で過ごす
これらの生活をしていくためには、対社会次元の自制である【ヤマ】【ニヤマ】の実践をしていくことです。
(※ヤマについては、以下をご参照下さい)
(※ニヤマについては、以下をご参照下さい)
心身が健康であるためには、生活の中で無理のない範囲から少しずつはじめていくことがオススメです。何事も継続が重要ですので、この観点からもヨーガ=生き方と考えられます。
ヨーガ療法
ヨーガ療法として、私たちの生き方を考えてみると、現代のストレス性疾患である【心身症】を抱えるクライエントの場合は、心身がストレスにさらされ動性や暗性が優位になった結果、【心理的ドーシャ/病素】が増悪し、その影響が肉体にまで影響し、諸病を発症させていると考えられています。
(※心身症については、以下をご参照下さい)
よって、古来からの伝統医学である【アーユルヴェーダ医学】では、心身の相関関係が病気発症の根本原因と考えられています。薬用オイルで肉体をリラックスさせたりすることではなく、心の病素までも善性優位にさせることで、肉体/食物鞘の不調である病気にアプローチし、肉体の病素であるヴァータ・ピッタ・カパのバランスを整えることになります。
(※肉体の病素であるトリ・ドーシャについては、以下をご参照下さい
【アーユルヴェーダ】でも【ヨーガ療法】においても、独自のアセスメント法により原因を駆使して心のどこに真の病素が潜んでいるかをアセスメントした上で適した行法を処方していきます。
(※ヨーガ療法については、以下をご参照下さい)
トリグナ理論の注意
グナは本質的には変化を続けています。よって、どんなグナも永遠なものではないということを理解しておく必要性があります。サトヴィックな生活に固執することは、本質を見誤ってしまうことにもなりかねません。また人が進化するにはサットヴァ・グナが関わっています。
文頭の【プルシャ/純粋意識】もグナの性質はもつが、【プラクリティ/根本自生】はグナに支配されていると考えることができます。プルシャはグナを卓越し、自己実現または純粋意識に到達するのに必要なのがトリグナのコントロールです。
その方法は、
- 諸感覚器官のコントロール
- 【アハンカーラ/エゴ】である自己の執着を弱める
- 【理智】の見誤りを正す
(※アハンカーラについては、以下をご参照下さい)
こうした心からすべてのグナによる支配が取り除かれれば、純粋な心からの喜びを感じることができます。その方法が【ヨーガ】とされています。
まとめ
- 心の性質【トリ・グナ】
- 体の性質【トリ・ドーシャ】
- 心身は相関し、全体としてのバランスを保つための基本的な運動と食事に気をつける
- この理論を知ることで、自己理解の材料になる
- 日常生活の指針として【トリグナ】を使用して、気づきを増やしていくことができる