本記事では、【ストレッチ】に対する以下の内容について解説しています。
- 種類について
- 効果や目的について
- 問題点について
- 意味があるのか/ないのか
- 筆者の見解
【ストレッチ】は、血液循環の改善、疼痛軽減、身体柔軟性向上、リラクゼーションなどの効果が期待され、スポーツ分野に限らず医療分野でも頻繁に使用されています。しかし、確かな理論的背景をもたずに実施されている場面や逆に痛めてしまっている場合も多々あります。また現代では「ストレッチはしない方がよい」という意見があります。確かにパフォーマンス低下や関節を緩めることによる傷害が報告されています。
私自身は【ストレッチ】に関しては、否定的な立場をとっており、現場においても用いることはありません。あくまで立場を明確にした上で、今回は【ストレッチ】の簡単な理論的背景から有効な介入手段となるかどうかについて考えていきます。
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目的
【ストレッチ】は、一般的に以下の効果を期待して用いられています。
- 筋緊張の低下
- 柔軟性改善
- 筋痛の緩和
- 血液循環の改善
- 障害予防
- パフォーマンス向上
以上の様な目的で実施され、いくつかの報告は昔からあげられているが、ストレッチに用いられる筋収縮の様式や持続時間、部位、伸張方向により様々な報告があり、一定の報告は得られているものの明確な根拠が示されていないという状況です。
種類
【ストレッチ】は、大きく分けて2種類に大別することができます。
- バリスティック・ストレッチング(動的)
- スタティック・ストレッチング(静的)
バリスティック・ストレッチング
【バリスティック・ストレッチング】は、反動を利用して筋を伸張する方法で、幼いころに体育の授業の準備運動やラジオ体操などでされていた弾みをつけてリズミカルな柔軟体操のことです。反動をつけて筋肉を伸張することは、【筋紡錘】という筋肉の長さを感知するセンサーを興奮させ、伸張した筋肉を反射的に収縮させる【伸張反射】という反応を助長します。
この方法では、筋肉の緊張をさらに亢進させ、可動性低下、弾みをつけるために筋・腱損傷を引き起こすリスクが高くなるという理由から現在では、あまり用いられてはいません。
ダイナミック・ストレッチング
動的なストレッチの中にもう一つ【ダイナミック・ストレッチング】という方法があります。【相反神経メカニズム】と【Ib抑制】を利用して、拮抗筋の等張性収縮を俊敏に繰り返すことにより、ターゲット筋の抑制を目的として用いられます。
スタティック・ストレッチング
【スタティック・ストレッチング】は、現代一般的にストレッチと呼ばれている代表的な方法です。動的なストレッチとは異なり、反動は利用せずにゆっくりと筋を伸ばしていき、最大限に伸びた状態を数十秒保持するという方法のストレッチです。専門的には【Ib抑制】を利用して、筋緊張低下により柔軟性改善、パフォーマンス向上をさせることを目的として実施されています。
理学療法分野では、特定の筋の緊張を低下させることにより関節可動域制限(ROM制限)の改善を目的として使用されることが多い方法です。しかし、昔からむしろ運動パフォーマンス効果を低下させる可能性が指摘されている方法です。
方法による効果の違い
現代主流とされている【スタティック・ストレッチ】でも、運動前にすることにより筋出力の低下を引き起こす可能性があります。また柔軟性向上には、【ダイナミック・ストレッチ】が【スタティック・ストレッチ】よりも効果的であるという報告があったりとまちまちです。明確な指針が出ていないというのが現状です。筋の状態に合わせて実施していくことが重要になり、筋緊張が亢進している筋や痛みが発生している筋に対して、同一の方法による介入をしていては効果がでるはずもありません。セラピーとして介入する場合には、当然のことですが明確な【アセスメント】の元に介入しなければなりません。
よって、【ストレッチ】をするにしても、ターゲット筋の状態をアセスメントし、状態に合わせた速度、収縮様式や角度で用いられることが望まれます。
セルフストレッチと専門家による施術の目標を別にもっておく
最近では、ストレッチについて色々な書籍が発行されており、手軽に自宅にいながらセルフエクササイズとしてできるようになりました。筋肉についても専門的な書籍を読む方も増えています。解剖学的な姿勢から各筋肉の作用があり、基本作用の反対方向に伸ばすことがストレッチとされていますが、同じ筋肉でも様々な方向に走行していますし、関節の方向や角度によって効果が大きく異なってきます。細かいところは専門家に個別に施術してもらうことが必要ですが、日常的にセルフケアをしていくことは重要です。
自宅でのセルフストレッチの利点は、
- 好きな時にできる
- いくつかの筋肉をまとめてストレッチできる
- 特別な器具がいらない
- 専門知識がいらない
- 安価
専門家による他動的なストレッチの利点は、
- 特定の筋肉にアプローチするために効率的
- 効果を得やすい
- ストレッチによる悪化のリスクが低い
- 納得した説明を受けることができる
- 痛みを伴わない
ストレッチによって悪化する
【ストレッチ】によって主に伸張されるのは、
- 筋
- 筋膜
- 腱
- 靭帯
- 皮膚
- 脂肪組織
生体の骨組織を除く結合組織である【軟部組織】が対象となります。
これらは、大小はあるものの伸張性のある組織であるがゆえに伸張が強ければ、ちぎれます。要は損傷するということです。筋を例に取ると、引きちぎったり、強い圧迫によって筋は出血し、出血部が瘢痕化すると本来ある軟部組織の伸張性が低下することになります。よって、柔軟性が低下するどころか線維的な堅さをも作り出してしまう危険性があります。
ストレッチは効果的なのか?
近年では、リラクゼーションや自律神経の調整を目的としても用いられるようになってきている【ストレッチ】ですが、やり方を誤れば、身体を傷める可能性も非常に高いので注意が必要です。また、ストレッチ専門店なるものができていますが、施術者のレベルは受ける側は正直わかりません。理学療法士でも同様です。また技術のある方でもストレッチが良いという確証がない以上は、否定的な立場をとらざるを得ません。
よって、【ストレッチ】はオススメしません。もしもどうしても自分でやるとしても、「少しの伸張感を感じる程度」を限界として、極マイルドに実施すべきです。
ヨガはどうなのか
近年、高い柔軟性が得られる手段として【ヨガ】が注目を受けています。偏った柔軟性を求めることは【ヨーガ】の本質からは異なるのは周知の事実ですが、【伝統的ヨーガ】では日本で一般的なヨガ教室で行われるヨガは一切指導されていません。ヨーガはどのような場所で行われていたかを知ると納得できます。
(※ヨーガの歴史については、以下をご参照下さい)
ヨーガの起源は、険しく非常に過酷な環境のヒマラヤ山中でも活動できるような修行システムでした。いかなる環境でも心身が動揺することなく、落ち着いていることが求められました。身体面に関して、足場は悪く、冷たく、険しい崖をもよじ登ることをも可能にする心肺機能や筋力の強さが求められました。ましてや現代のように柔軟性のある奇怪なポーズを修行として行われていたとは決して考えることはできません。
また柔軟性を高める為にストレッチのように【アーサナ】をしていては、パフォーマンスを低下、関節の緩ませ、不安定にさせ、身体の弱さを作り出してしまいます。険しい環境下では、柔軟性が求められていません。
(※アーサナについては、以下をご参照下さい)
いつしか高い柔軟性を求めるが為の手段がヨーガとなっています。これは目標や目的を明確にしなければいけません。高い柔軟性を目標とするのであれば、ヨーガである必要性はなく、むしろヨーガの歴史から考えると柔軟性獲得の為にはヨーガは適していないと言うことができます。
(※目標・目的設定の重要性については、以下をご参照下さい)
なぜ現代のようなヨーガとなったのか
日本に入ってきている【ヨーガ】のほとんどは、ヨーガの起源とされている【インド】ではなく、【アメリカ】から輸入されたものです。欧米人はマニュアル化するのが得意の為、ヨーガを【アーサナ】をいくつかのステージに分けました。難易度が設け、人々に競争意識や上下や優劣によって、ヒエラルキーを作り出しました。皮肉なことに現代では廃止された【カースト制】のインドの文化までも取り入れたようなものです。パワー、柔軟性、バランス感覚の高さを競うようにすることで、人々はヨーガに熱中し、よりキレイなポーズを取るために足繁くヨーガに打ち込んでいます。この競争関係によって、ヨーガをビジネスとして成り立ったということです。またヨーガをスポーツと並列に扱ったようなものです。
(※ヨーガとスポーツの違いについては、以下をご参照下さい)
日本においては、一部のハリウッドスターやセレブがヨーガを実践していると聞くと、美の秘訣がヨーガにあると錯覚するように大流行しました。そして、そのポージングに魅了されるように真似をするようになりました。誰もヨーガをすると彼女たちのようになれるとは、考えていないと思いますが、同じことを趣味とすることである種の同一視をすることで、満たされているのでしょうか?
インドから直接持ち込まれたヨーガもある
もちろん現代で指導しているヨーガ団体の中で、伝統を重んじて指導している団体もあります。その一つが、【ヨーガ療法】を指導している、日本ヨーガ療法学会です。
(※ヨーガ療法の詳しい内容については、以下をご参照下さい)
ヨーガ療法において、【ストレッチ】は一切しません。それは経験の科学とも言われる【伝統的ヨーガ】の本質を脈々と受け継いでいるからです。人々の意識が生産性の高低や損得などの二極対立の意識より高い次元の意識へとシフトしていくことを重要と捉え、偏った物の見方を病気の根源として捉えているからです。その点で現代社会の問題点を鋭く突き、現代が抱える課題を解決に導くエッセンスが詰まっている、理想的なヘルスプロモーションとも考えることができます。
(※ヨーガの病理論については、以下をご参照下さい)
また身体機能においても、筋力トレーニングの常識とされる【過負荷の原理】とは異なる、低負荷での運動やスロートレーニング、スポーツ業界や最先端のリハビリテーションでは用いられている【運動イメージ】の理論までもが既に盛り込まれている理想的なセラピーです。
一度本物のヨーガクラスに参加されてみてはいかがでしょうか。
(※詳しい指導施設については、日本ヨーガ療法士会にお問い合わせ下さい)
まとめ
- 【ストレッチ】に関して、エビデンスがあまり進歩していない
- 過度な柔軟性は、身体の弱さにつながる危険性がある
- 専門家による判断を受ける必要性がある
- そもそも柔軟性はどれほど必要なのかを考える