中国古来から伝わる道教の原理に、ある意識レベルでは常に陰と陽の対極があります。より高い意識レベルでは、その両極が「道(タオ)」と呼ばれる、1つの目的に統合されると考えられています。ハタ・ヨーガのハとタの2つの異なるエネルギーの調和が求められるのと同様に、この調和や統合が「道(タオ)」と呼ばれています。一見対極にみえるエネルギーや概念を統合することにより、調和に満ちた全体がとなります。
アクティブなスタイルのヨガに対して、リラックスや落ち着きを取り戻すことを目的とした静的なヨガの代表として【陰ヨガ】があります。陽ヨガは、なんとなく理解できますが、「陰ヨガ」とは一体どんなスタイルのヨガなのでしょうか?そんな疑問を解決するように特徴や合う人、効果を取り上げて解説していきます。
陰ヨガとは?
「本山 博」のチャクラ・経絡理論をもとにPaul Grilley(ポール・グレリィ)が考案したヨガとされています。「陰ヨガ」とは、筋肉の緊張を緩め、ひとつのポーズを数分間キープしながらじっくりと身体の奥深くをほぐしていくヨガのことを言います。
陰陽の考え方
陰陽は、この自然界における森羅万象を2つの陰陽という対極の異なるカテゴリーに分類するというものです。
陰・陽は以下のような性質によって分類されます。
もちろんこれらの統合、調和によって【中庸】を目指すことが重要です。
陰陽五行説
上記の陰陽思想から進展して、やがて五行と結びついていきました。これがいわゆる【陰陽五行説】という思想です。
五行の思想は自然界は木、火、土、金、水の5つの要素で成り立っているというものです。五行の行という字は、「巡る、循環する」という意味があり、5つの要素が循環することによって万物が生成され自然界が構成されていると中国では考えられていました。
陰ヨガの特徴
陰ヨガは、骨や筋肉をつなぐ結合組織にフォーカスします。特に骨盤や股関節周囲を中心にゆっくりと自分の体重と時間をかけて伸ばしていき、経絡やツボやリンパ、筋を伸ばし、静止したヨガです。ポーズは、座るか寝るポーズを中心に1分〜5分以内(またはそれ以上)キープすることが大きな特徴です。
もう1つの大きな特徴は、5つの主要な臓器に関連する経絡にじっくりと働きかけます。
ポーズを維持し、圧力をかけることによって、経絡が刺激され、肝臓(胆嚢)、心臓(小腸)、肺(大腸)、腎臓(膀胱)、脾臓(胃)の内臓器官の働きを高めることを目的としている点です。
陰ヨガでは、いくつかの基本ポーズがありますが、自分の心地よいところを探り、適度に動いても構わないというスタイルのヨガです。人体は個性があるので、人それぞれのポーズが生まれます。
ポーズを味わうためには、重力に逆らわないことが大切になります。私たちの日常生活では、重力に抗した活動(抗重力位活動)が中心です。長いポーズのキープの間に自分自身を見つめ、「どこに力が入っているのか?」を探り、力が抜けたときに陰ヨガのポーズを最大限に味わえるとされています。
陰ヨガの一般的な効果
ここからは一般的な陰ヨガの効果です。ヨガは東洋思想が多く含まれているために科学的根拠のない効果がよくあげられています。筆者の目から否定的な観点からも解説していきます。
柔軟性がつく
身体をゆっくりと動かし、表面の筋肉を緩めて、筋肉を包む膜(筋膜)などの結合組織を伸ばしていくことで柔軟性を高めていきます。長時間かけてスタティック(静的)なストレッチをするということです。
私はストレッチについては否定的な立場をとっています。筋肉は伸縮する組織ですが、意識的には収縮することしかできない、収縮することが役目の組織です。筋肉にとっては、如何に収縮することが出来るかが能力の求められるところですので、伸ばす必要性がまずありません。
バネを想像して頂くとイメージしやすいですが、柔らかいバネが優れていて、硬いバネが劣っているわけではありません。強い力があれば硬いバネを有効に使うことができますし、そのバネの機能を十分に使えているのであれば問題はありません。
(※「ストレッチはしなくていい」については、以下をご参照下さい)
よって、筋肉が硬い場合は、身体の使い方や筋力が適当でない場合が多いと考えられます。
自分の動きを確認するためにゆっくりと動き、身体の反応を確認するということは非常に有効です。確認することができる、身体運動の観察に長けた指導者のもとで実習することは有効と考えられますが、であれば「陰ヨガでなくても良いのでは?」となってしまいます。
リラックス効果
身体の動きと呼吸を同調させていくので、呼吸が滑らかになります。呼吸が滑らかになるということで心にも作用するということになります。心の作用を少しずつ落ち着けていき、自分の心身と向き合えます。マインドフルネスと同様な効果を得ることが出来ると考えられます。
身体の動き、呼吸そして意識の方向性をコントロールしていくところは合理的な方法です。あくまでそのレッスン中は味わうことが出来る対症療法であるという理解をしていくことが大切です。ヨーガの病理論から考えると根本的な原因にアプローチには、瞑想に入っていく必要性が強いということになります。
しかし、日常生活上のストレス・コーピングを学んでいくというのであれば有効かと考えられます。
初心者向きである
静的な動きによるヨガなので、初心者に向いているかもしれません。どんなヨガでも他者と比べることもなく、椅子に座っても、身体が硬くても、その人に合わせてポーズを修正できますので、基本的にヨーガは誰でもどこでも実習できます。
しかし、現代ヨガはスポーツに近いものとなっているのが非常に残念です。正直、初心者には参加しにくいクラスが存在するのも事実です。
仕事の能率が上がる
陰のエネルギーは、心の落ち着きや興奮を抑える効果があるので、リラックスと同様な過程で集中力を高めることが出来ると考えられます。落ち着きを与えることで脳も合理的に働かせることができ、その結果として集中力UPなどの効果は得られると考えられます。
身体的美容に関して(足痩せなど)
夕方になると足が浮腫んできて大変だという女性は多いのではないかと思います。これは下半身の静脈とリンパ管の影響で起こっているわけですが、長時間かけてストレッチをしてもリンパ液の流れを良くするのは難しいのではないかと考えられます。それよりもよっぽど、筋ポンプ作用や心機能を向上させるようなフィジカルエクササイズの方が浮腫以外のお肌をキレイにするにも合理的な方法だと考えられます。
(※筋ポンプ作用や浮腫については、以下をご参照下さい)
代表的なポーズ
- バタフライ(ハーフ)
- キャタピラ
- キャットテイル
- チャイルド
- クレイドル(ゆりかご)
- ドラゴン
- ドラゴンフライ
- ゲッコー(やもり)
- ハンモック
- ヘッドクレイドル(頭のゆりかご)
- インファント
- ペンタクル
- サドル(ハーフ)
- シール(あざらし)
- シューレース(靴紐)
- スリーピングスワン
- スネイル(カタツムリ)/鋤のポーズ
- スターラップ(ハーフ)
- スワン
- ツイストドラゴン
- ツイストルーツ
初心者の場合は、まず自宅で練習してみるのもよいかと思います。
DVDで理論と実践が学べるものがありますので手始めにいかがでしょうか?
注意点
いきなり最大限のところまでポーズを深めないことです。リラックスしながら自分の重みを関節部分にかけながら長くポーズをキープするので、気をつけないと怪我をしてしまいます。ポーズをキープしている間は、常に身体に負担がかかりすぎていないかどうかを注意深く、自分で観察する必要があります。
まとめ
日々めまぐるしく動き回る「陽」の要素が大きい日常生活には「陰ヨガ」、寒い季節や心が暗いといった「陰」の状態にあるときには「陽ヨガ」を取り入れるなど、今の状態に合わせて使い分けることができます。大切なのは陰陽のバランスをとることです。もともとハタヨガもハとタは陰と陽という2つの異なるエネルギーの統合という意味もあり、これらの2つをバランスよく循環させることに効果が発揮されます。