本記事では、
- ヨーガセラピーと一般的ヨガの違い
- 伝統的ヨーガの目標
- 現代医学との共通点と相違点
について解説しています。
心と身体は互いに深い関わり合いがあります。これを心身相関といいます。生活習慣病をはじめとする現代病の多くは心身症といわれています。心身症は、心の認知を誤ることによる不調が原因とされています。
ヨーガ療法は、日常ではあまり意識することのない次元の心身への理解が深められ、気付きを得ることで、健康へと導いていきます。
(※心身症については、以下をご参照ください)
療法/セラピーというと病気を治療することをイメージしますが、治療は医師の専門です。医療分野の中でもヨーガ療法はチーム医療の一員となり得るエビデンスも構築しています。また一般の人を対象とした健康増進法としてのヨーガ療法が町で指導されています。
(※一般のヨーガ教室とは異なりますので、ご注意下さい)
一般のヨーガ教室と比べると圧倒的に普及はしていませんが、地道に伝統を守りながら拡がっています。
(指導施設についての詳細は(社)日本ヨーガ療法学会HPを参照下さい)
しかし、ヨーガ教室に通われる方は健康な方ばかりではないという報告があります。厚生労働省とヨーガ療法学会で調査した結果では、病院通いは終わったけれども病気をまだ持っている、あるいは通院しているという人が一般のヨーガ教室に通われています。
(※日本だけでなく、世界中のヨーガ教室にたくさん来られている様です。)
何かしらの病気を持ちながら通っているのに、アセスメントなしでヨーガに限らずに運動を指導をすることは非常に危険です。しかし、一般のヨーガ教室では、リスク管理なしに指導されているのが現状です。何かしらの効果を期待して通っているのに、怪我をしてしまっては本末転倒です。また、自己責任という誓約書のみでリスク管理ができていると考えている指導者は、非常に責任感がなく、プロ失格です。
抱えている病気によっては、ヨーガで行われている技法が禁忌となるものもたくさんあります。ましてや肉体を酷使するような一般ヨーガを行うことは非常に危険であり、事実、ヨーガによる有害事象の報告が数々あがっています。誰でも安全に取り組むことができるヨーガ療法は、健康増進はもちろん、病気をもった方でも適切なアセスメントの上で行うことでその人らしい暮らしを支える方法として非常に有効な手段になります。
[ad#ad-1]
ヨーガ療法の歴史
ヨーガ療法とは、
5000年間インドのヨーガ行者に継承されている伝統的ヨーガの叡智にもとづき医療の中で再構成された健康増進法であるとともに、心理療法としての対人援助体系と考えられています。1920 年代から、インドのカイヴァルヤダーマ・ヨーガ研究所で伝統的ヨーガの医学的検証が開始され、その流れの中で「ヨーガ療法」が医療目的および健康実現法として再構成されることとなりました。
伝統的ヨーガの技法や智慧を科学的に研究し、改良を加えることで、
- 身体機能の回復
- 心の落ち着き
- 睡眠などの精神的な健康を向上
を期待できる健康法として、疾患を持つ人でも安全に行うことが出来るように作られています。
また健康な方でも、日常生活に役立てることができます。
- 生活習慣の改善や病気の予防
- 心が安定することによる人間関係の改善など
最近では、
- ストレス性疾患
- 生活習慣病
- 介護予防
- こころの病
にも有効であるとする研究報告が増え、 現代医学的治療の補完療法としての効果が期待を示す研究も増えてきています。
引用一部改変:日本ヨーガ療法学会HP
インドにおけるヨーガ療法
インドではその後、8校のヨーガと自然療法医科大学をはじめ、30校を越える大学にヨーガ学科が設置されています。その内の1つのスワミ・ヴィヴェーカナンダ研究財団の教育部門は、2002年 5月にインド中央政府よりヨーガ大学院大学として認定され、修士号、博士号が取得出来るようになりました。また同財団では、バンガロール市郊外に西洋医も常駐するヨーガ療法治療施設を持ち、年間1万人を越える心身症患者にヨーガ療法を指導しています。
ヨーガ療法は、肉体次元の運動療法としての機能はもちろん、人間観・病理論・治療/指導論を備えた心理療法体系の1つとも言われています。
これまでに、Swami Vivekananda Yoga Anusandhana Samsthana(sVYASA)が中心となって全世界に広めてきました。
日本におけるヨーガ療法
日本においては、ヒマラヤのヨーガニケタンにおいて、スワミ・ヨーガシュバラナンダ大使の元で修行し、ラージャ・ヨーガ・阿闍梨となって帰国した木村慧心氏が、1981年に日本ヨーガ・ニケタンを設立し、伝統的ヨーガを伝え始めました。その後2003年に日本ヨーガ療法学会を設立し、ヨーガ療法の普及を開始しています。
現在も3年間のインド中央政府公認(社)日本ヨーガ療法学会認定ヨーガ教師・ヨーガ療法士課程(YIC &YTIC)が設置されており、日本全国で開講されています。
今日では、主に統合医療の中で全世界で実施されており、ヨーガについての医学的検証が現在でも進められ、ヨーガ療法は統合医療の中で代表的なものとなっています。
厚生労働省の公式サイト「統合医療情報発信サイト内に、ヨーガのエビデンスが多数出ています。
伝統的ヨーガとヨーガ療法の関係
- 伝統的ヨーガ:解脱に向けた理論・技術・哲学
- ヨーガ療法:伝統的ヨーガの理論、技術、思想の上に成り立つ、完全なる健康を目指す、体系的な対人援助法
ヨーガ療法は、以下の健やかさを実現できる統合的人間教育法となっています。
- 肉体的
- 精神的
- 社会的
- スピリチュアル/宗教的
ヨーガ療法で用いられる技法
- フィジカルエクササイズ:心肺機能の強化
- 呼吸法:自律神経系へアプローチし、感情のコントロールを目指す
- (積極的な)リラクゼーション法:心身の反応を認知し、日常生活に役立つセルフコントロールを目指す
- 瞑想:「いまここに」を意識し、日常生活でも自身でコントロールできる心を身につける
呼吸法は、プラーナーヤーマと言われ、プラーナ/生気のコントロールをする方法です。身体内外を行き来するプラーナを制御することによって、自律神経系へアプローチをしていきます。
(※生気については、以下をご参照ください)
瞑想は、「いまここに」への意識と聞くと、近年話題のマインドフルネスを思い浮かべる方もおられると思います。ヨーガの瞑想は、マインドフルネスとは異なるものです。
(※ヨーガの瞑想とマインドフルネスとの違いについては、以下をご参照下さい)
各技法による目的は、以下の様に整理され、医療においてスタンダードな考え方である生活の質/QOLの向上させるために総合的な健康を目指していきます。
- 肉体次元では心肺機能を強化
- 心の機能も調整し
- 心身両面のセルフコントロール
(※QOLについては、以下をご参照ください)
(※健康について考え方については、以下をご参照ください)
一般的ヨーガとの違い
柔軟性やポーズを完成することがヨーガではありません。「いまここ」の心身の状態を観察し、意識化を促し、気付きを得る手段がヨーガです。その判断材料となる理論が存在し、理論を軸に見立て、その人に合ったオーダーメイドのヨーガを指導していきます。
単なる運動療法としてのヨーガでは、運動の結果に偶発的な改善を得ることはできるかもしれません。しかし、そこにも評価方法と指導理論が存在するはずです。セラピーとしても確立している以上は、理論なしに語ることは許されません。的確な理論をベースとしたアセスメントにより、最適なでアプローチを選択し、積極的な健康増進法としてヨーガ療法は成り立っています。
ヨーガ療法は、
- 病気の方
- 高齢者
- 運動習慣のない方
に対して、ヒマラヤの修行僧のようなタフな行法をそのまま用いることはしません。
最先端の現代西洋医学を基に安全に実践できるように開発されています。指導者となるヨーガ療法士も3年以上の養成コースを卒業してからも継続して単位を取得し、日々最新の医学情報をもとに研鑽を続けています。
またヨーガ療法は医学研究所・専門機関との研究も行っています。
4大ヨーガについて
インドにおける伝統的ヨーガは、大きく分けて以下の4種類に分類できます。
- ギヤーナ・ヨーガ:哲学的思索を通して、解脱に至るヨーガ
- バクティ・ヨーガ:神への信仰を通して、解脱に至るヨーガ
- カルマ・ヨーガ:行動を通して、解脱に至るヨーガ
- ラージャ・ヨーガ:王道のヨーガ。八支則を通って解脱に至るヨーガ
(※八支則については、以下をご参照ください)
ラージャ・ヨーガは、ラージャ/王様という文字が冠されているように、他の全てのヨーガの技法を包括している王道のヨーガです。ヨーガ療法も、このラージャ・ヨーガを基本として健康増進が図られています。
伝統的ヨーガの目標
「ヨーガとは心素の働きを止滅することである」
(ヨーガ・スートラⅠ−2)
この説から、意識作用の完全なるセルフコントロールが目標とされています。それには相対的な対立する感情(二極の対立感情)の克服が必要とされています。
「心素の働きを止滅は、勤修と離欲によって、成し遂げられる」
(ヨーガ・スートラⅠ−12)
繰り返し繰り返し努力して、無執着を目指していくということです。無執着にいたり、解脱したとき、内在する神性と自己は一体化することを目標としています。
ヨーガ療法の目標
- 心身機能の調整
- 完全な心身両面のセルフコントロールの体得(無智からから生じる、我執・我欲からの脱却を図る)
- 身体的・精神的・社会的健康のみならず、スピリチュアルな健康も、総合的に作り出す
(※我執については、以下をご参照ください)
(※無智さについては、以下をご参照ください)
ヨーガ療法への期待|理学療法士の観点から
医療保険下でのリハビリテーションでは、患者それぞれに目標がありますが、介護保険下でのリハビリテーションには、対象者となる本人の意見が重視されない場面が多々認められます。家族等の支える側との帳尻を合わせることも重要なのですが、時に利用者本人の尊厳をも剥奪している様な場面によく遭遇します。
利用者本人も特定の目的もなしに、盲信するように身体を鍛えている方々もおられます。しかし、一度の失敗で全てが崩れてしまうような方もおられます。障がいを受け入れられていない場面、ストレスフルな環境の中を綱渡りの様な生活をしておられます。
その環境でも生きにいていくコツを伝え、身体と心の実用性を向上させてくれる方法が、ヨーガ療法です。ヨーガ療法は、介護福祉の場面においても、どのような終焉を迎えるかどうか(QOD)のヒントを与え、たくさんの気付きを得ることのできる唯一の方法だと考えています。
(QODについては、以下をご参照ください)
この現代の複雑な課題を解決に導く可能性のある唯一の方法がヨーガ療法だと実感しています。
まとめ
これまでのことで、ヨーガ療法について以下のことが言えます。
- 現代医学のエッセンスをも用いた、統合医療である
- 現代医学が抱えている問題点、溝を埋めることができる
- 個人の尊厳を再獲得できる手段
- 生きるための方向性、手段、目標、目的までを包括した方法
- 生きていくコツを教えてくれる。
- 安全安心マーク付きのヨーガ実践法